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​『海が見えたら』オフィシャルインタビュー

力強くも儚げな歌声は、どこか少年のよう に中性的でもあり耳をとらえて離さない。

​クララズ初のミニアルバム『海が見えたら』

  シンガーソングライター山内光のソロ・プロジェクト、クララズが 7 曲入りミニ・アルバム『海が見えたら』 をリリースする。

  彼女が敬愛するくるりやビートルズ、オアシスあたりを彷彿とさせるポップかつフォーキーなメロディライ ンと、4 ピースのバンド・アンサンブルを主軸とした、シンプルで骨太なサウンド・プロダクション。空っ風が吹きすさぶ見晴らしのよい草原で、たった一人佇んでいるような力強くも儚げな歌声は、どこか少年のよう に中性的でもあり耳をとらえて離さない。

歌詞の中でも、“僕” という一人称を使いがちですね。“私” なんていうキャラじゃないというか。いわゆる女性らしさみたいなものを、自分から出すのは “気持ち悪い” と思ってしまうんですよ(笑)。もともと声が低いというのもあるし、女性である自分が “僕と君” という歌詞を歌うことによって、その関係性を幅広くとらえてもらえるんじゃないか?という狙いもあるかもしれないです。

 元々はシンガーソングライターではなく、「作曲家」になりたかったという彼女だけあって、どこか自分を俯瞰的にとらえているところが興味深い。今のような音楽スタイルになる前は、打ち込みのオケを駆使してコー ネリアスのような音楽性を目指していたというし、「クララズ」というプロジェクト名を冠しているところか らしても、いわゆるアーティスト・エゴを全面に打ち出すタイプのシンガーではないことは明白だ。

 歌詞の内容も、どこかモラトリアムで無垢な透明感を醸した曲が多い。例えば「Lost and Found」では、“気付けばいつも、列車の中” とまどろみ、「車窓」では “変わればなにか言われ、変わらなくてもなんか言われる” とため息をつく。旅立つ友に向けた「エアメール」も、“焦らないで 焦らないで” と手を振っている。自分はどこから来て、どこへ行くのか。わからないまま “今” を漂っているような、そんな言葉の数々は、とかく世知辛い世の中にあって心を落ち着かせてくれる。

クララズ「エアメール」

昔から旅が好きなんですけど、それがこういうところに色濃く出ているのかもしれないですね。『海が見えたら』というタイトルも、『海が見えたらいいな』なのか、『海が見えたらサーフィンしよう』なのか、あるいは 『海が見えたら帰ろう』なのか。人によって浮かんでくる言葉は違ってくると思うんですけど、そういう余地を残したかったんです。

 海は、そこから何処にでも行ける「旅の入口」とも取れるし、最後に戻ってくる「目的地」とも取れる。全てを受け入れて、そこに存在する海。海が見えたら、さて僕ならどうするだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、本作を聴いている時間がたまらなく愛しいのだ。

文 黒田隆憲(音楽ライター)

クララズ 1st ミニアルバム『海が見えたら』

2018年5月2日 発売

CFFEE-003 ¥1500 +税

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